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避妊手術の基礎知識

なぜ避妊手術をするの?

避妊手術というと「なんだかかわいそう・・・」と思われる方が多いと思います。これは、動物たちを大切に思うゆえに、人それぞれ考え方も違いますし、必ず行った方が良い、行わない方が良い、と言い切れる問題ではないかもしれません。


しかしながら、避妊手術には獣医学上、様々なメリットが存在します。

病気の予防
  • 卵巣の病気の予防(卵巣嚢腫、卵巣腫瘍)
  • 子宮の病気の予防(子宮蓄膿症、子宮平滑筋腫)
  • 乳腺の病気の予防(乳腺腫瘍(良性腫瘍、乳がん)
  • ホルモンに関係する病気の予防(糖尿病の悪化、発情中の免疫力の低下)
  • 皮膚病に関する病気の予防(発情中には皮膚炎が悪化することがあります)
 
望まない子犬・子猫の出産を防止できます。

ご家族の意識や環境が十分に整っていない状態で産まれてきてしまった子犬や子猫は、果たして幸せに生活できるでしょうか。
出産を望む場合はしっかり準備をしてあげる事が大切ですし、出産を望まない場合はしっかり予防をしてあげる事が大切だと考えています。

発情に関しての出血や性的ストレスを軽減してあげる事ができる

発情中は特にストレスが溜まりやすいと考えられます。
人間により本能をおさえられてしまう事やいつもの散歩にいきづらくなったりといった様々なストレスを軽減してあげる事ができます。

避妊手術の時期はいつが良いの?
心電図検査

いつ避妊手術を行うべきかを決める大きな要素の一つに、乳腺腫瘍の予防効果ということがあります。


初めての発情前に避妊手術を行うと乳腺腫瘍の発生率は0.08~0.5%と極めて低く、初めての発情後では8%、2回以上発情を迎えた後では26%と徐々に高くなっています。
そして、2歳半以降に避妊手術をしても予防効果を増やすことはできないといわれています。


また、生後2ヶ月以内での避妊手術は、骨の成長に影響があることが分かっていますが、それ以外に問題が起こることはないといわれています。


よって、よく耳にする体の成長に悪影響が出るので、“1歳を過ぎてから避妊手術を行いましょう”という事に科学的な根拠はありません。
発情中には血管が太くなることから、特に開腹手術では出血量が多くなりやすいため、無発情期に手術を行うことが望ましいでしょう。

 
ポイント

病気の予防のために、初めての発情前に避妊手術を行うことが推奨されます。

  • 最適な手術時期を選ぶことで、乳腺腫瘍の発生率を抑えることができます。
  • 獣医学的には生後5~6ヶ月が推奨されます。
  • 発情中には、手術による出血が起こりやすくなります。
 
避妊手術の新しい考え方
避妊、不妊の方法はどのように決めるの? 避妊、不妊の方法 卵巣摘出術と卵巣子宮全摘出術はどう違うの?

現在、日本国内では、卵巣子宮全摘出術といって卵巣・子宮の両方を取る手術が広く実施されてきました。


しかし、アメリカを中心に研究が進み、現在では卵巣のみ摘出する方法と、卵巣・子宮の両方を取る方法とでは、その後の病気の予防効果に差が無いことが証明されました。
それは、卵巣からのプロジェステロンというホルモンが分泌されなければ、子宮は委縮してしまい子宮蓄膿症などの子宮疾患は発症しないからです。


卵巣・子宮の両方を摘出する方法では、卵巣のみを摘出する方法に比べ、手術時間が長く掛かったり、出血も多くなったり、切り取った子宮断端の癒着や炎症、膿瘍などの問題が起こることもあり、また最近では子宮の処理を行う際に使用する糸が動物の身体に異常反応を起こす縫合糸反応性肉芽腫というやっかいな病気を招く原因にもなり問題となっています。

 
ポイント

卵巣摘出術は、卵巣子宮全摘出術に比べて推奨される手術方法です。

理由1:卵巣、子宮、乳腺などの病気の予防効果は同じ

理由2:手術時間が短い

理由3:出血量が少ない

理由4:お腹の切開の大きさが小さい

理由5:子宮断端に関わる合併症のリスクを減らすことができる

 

当センターでは、まず腹腔鏡下で子宮の状態を観察し、子宮に問題がないことを確認してから腹腔鏡下卵巣摘出術を行います。
それは、若い動物であれば問題はありませんが、中、高齢動物ではすでに子宮に病気が起こってしまっている可能性があるからです。
子宮に病気を疑う病変が認められたなら卵巣・子宮の両方を摘出します。
もちろん、手術前に、卵巣摘出術、卵巣子宮全摘出術のどちらを行うのか、ご家族のご希望によって決定し手術を行います。

開腹手術と腹腔鏡手術はどう違うの?
手術室
開腹手術による避妊手術

殆どの動物病院で、開腹手術による避妊手術が行われています。


教科書的には、おへその下から下腹部にかけて15~20cmの切開を加えて、卵巣・子宮を体外に引っ張り出し、体の外で卵巣の血管、子宮の処理を行います。
それらの処置が終わると、ガーゼなどを用いてお腹の中で出血が無いかを確認し、切開したお腹を筋肉層と皮下織、皮膚と縫合し手術は完了です。そして、10日程で抜糸を行います。


著者の所属施設においても、1990~2003年の13年間、この手術方法で避妊手術を行ってきました。

腹腔鏡手術による避妊手術

まず気腹といって、お腹を炭酸ガスによって風船のように膨らませ、3mm、5mmといった小さな傷(穴)2~3箇所を使ってトロッカーと呼ばれる筒状の器具を設置します。
そこから2.7mmや5mmといった細い内視鏡や手術用鉗子をお腹の中に挿入し、お腹の中で卵巣の処理を行います。


血管の処理に関しては、超音波凝固切開装置(超音波メス)を用いて行います。
そして、処理された卵巣・子宮を体外に取り出します。


最後に、内視鏡を用いてお腹の中を再度観察し、止血の確認を確実に行い、小さな傷(穴)の縫合をして手術は完了です。
そして1週間程で抜糸を行います。


当センターでは、2003年から600例以上の腹腔鏡による避妊手術を行っています。
手術時間は15~20分程で安全かつ確実に行うことができます。

 
当センターでの避妊手術の紹介はこちら
 
  開腹手術 腹腔鏡下手術
安全性 安全(熟練が必要)
肥満犬や大型犬で術後出血あり
安全(熟練が必要)
内視鏡下で止血の確認ができる
確実性 確実
卵巣の取り残しの問題あり
確実
内視鏡下で確認できるため卵巣の取り残しを防ぐことができる
麻酔、手術時間 15~20分
熟練していなければ長時間
15~20分(熟練が必要)
熟練していなければ長時間
傷の大きさ 15~20cm
傷を小さくできるが卵巣・子宮に負荷がかかる。止血の確認が困難
3mm、5mmといった2~3箇所の小さな傷
脂肪の量によって卵巣や子宮を取りだすために1箇所の傷を1~2cmに拡大することもあり
抜歯に必要な期間 10日 7日
痛み 大きい
  • 卵巣を強く引っ張るため
  • 傷が大きいため
小さい
  • 卵巣を強く引っ張らないため
  • 傷が小さいため
入院、術後看護 3日間程度は必要?
3日間程はしょんぼりしていることが多い
基本的に日帰り手術
殆どは、翌日には、普段通りの食欲、元気に回復することが多い
傷の治り 7日以上は必要?
傷を気にしてなめる(++)
エリザベスカラー(++)
3日以上は必要?
傷を気にしてなめる(+)
エリザベスカラー(+)
他の臓器の観察、
検査、手術
切開を広げることで可能 傷を広げることなく可能
老齢動物にメリットが高い
動物への負担 大きい 小さい
手術費用 腹腔鏡下手術に比べて安価 開腹手術に比べて高価
内視鏡手術機器が高額なため
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